【コーヒーブレイク】菅さんと新浪さんと煉獄さん。叩き上げに見る「高貴なる者の義務」の精神

コーヒーブレイク
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劇場版「鬼滅の刃」無限列車編が先週、地上波(フジテレビ系)で初放送され、にわかに鬼滅ブームが再燃してきました。細かい解説は他のメディアに譲りますが、この無限列車編で活躍する鬼殺隊の柱・煉獄杏寿郎は、幼い頃から体が強く、それゆえに母親から「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です」と教えられます。私はこのシーンがとても印象に残りました。

これはノブレス・オブリージュ(身分の高い者に課せられた義務)に通じる考え方です。恵まれた立場にいる人間は、その地位に応じた義務を果たさなければならない。普段は優雅な暮らしをしている貴族も、いざ戦争となれば最前線に立つ。そんな規範を表現するフランスで生まれた言葉がノブレス・オブリージュです。煉獄さんは幼い頃にそれを母親から教わったのです。

翻って現代の日本。このたびひっそりと官邸を去ることになった菅首相は、就任時に「自助」を第一に掲げました。保守政党である自民党が小さな政府を志向することは当然ですが、それを第一に標榜することは政府の役割放棄と言われても仕方がないでしょう。最低限、その権力に応じた施策を実行してから言うべきでした。それが首相の義務というものです。

また最近話題になったサントリーホールディングスの新浪剛史社長による「45歳定年制」の提言。これは政府による70歳定年制へのなし崩し的移行を防ぐための牽制だとは思いますが(そう信じたい)、これだけ大規模で、かつアルコールという社会的に良くも悪くも影響が大きい商品を扱う企業のトップとして、これは社会全体への視座に欠けると言われても仕方ないでしょう。私はサントリーは好きですが(ウイスキーの「山崎」はおいしいです。滅多に飲めませんが…)、どこかのコンサルティング会社ではあるまいし、この発言はいただけません。

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もちろん、この2人の思想や発言も一つの考え方ではあると思います。ただ地位が高く、権力を持った人たちには、やはり果たすべき義務、すなわち今の日本の状況を見据えた社会保障の確保や雇用維持に努めることが、まず求められるのではないでしょうか。現状を見て、多くの人が自助で生きていくこと、45歳から自由に転職していくことが本当にできると思うのでしょうか。

おそらくこの2人にはできるのだと思います。叩き上げで総理大臣にまで上り詰めた菅さん。オーナー家出身ではなく、複数の企業で経営者を務めた新浪さん。なぜもっと頑張らないんだ、俺はもっとやってきたんだ、と思っているのかもしれません。だから今の地位があるんだと。しかし色々な人がいるのが社会です。いくら頑張っても報われない人もいますし、そもそも体力的にも精神的にもそこまで頑張れない人も多いはず。それが社会というものなのです。

一般的に苦労人は人の気持ちがよく分かるといいますが、それも時と場合によりけりだと思います。叩き上げは努力して上り詰めた分、今の境遇が悪いのは本人の努力不足と思うこともあるのかもしれません。でも成功している人は純粋に自分自身の努力だけで、そこまで上り詰めたのでしょうか。たまたまその分野に適性があっただけなのかもしれませんし、究極的には運やタイミングが良かったのかもしれません。それは誰にも分からないのです。

戦後の日本は極度なまでに平等な社会を目指しました。それは身分制が色濃く残る戦前や、将校が威張り倒した戦時中へのアンテーゼだったのかもしれません。私たちはエリートと聞くと反射的に鼻持ちならない人物を想起しますし、叩き上げと聞くとどちらかといえば共感を抱きがちです。でも平等という建前がある分、人は権力を持つ立場になっても高い地位に就いても、社会全体に奉仕するという意識を持ちにくいのかもしれません。

「鬼滅の刃」の煉獄さんは、生まれながらに強いということがポイントです。もちろん鬼殺隊の柱ですから修行もしているのでしょうが、少なくとも母親は生まれ持った資質を見て助言したわけです。残念ながら家柄や資産、あるいは能力でも人間は生まれながらに差があります。その差をオブラートにくるんでないものとして扱うよりも、恵まれたエリートに「高貴な義務」を意識してもらうことの方が、今の日本には必要ではないか。そんなことを思いました。

何にしても菅さん、1年間お疲れ様でした。静養を兼ねて「鬼滅の刃」の続編、遊郭編を国民とともに楽しみましょう。そして新浪さん、もしオーナー家から馘首を言い渡されるようなことがあれば、雇われの哀しみを国民とともに噛み締めましょう。

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