前回の記事で「転職は撤退戦」ということをお伝えしました。それなりに苦労を伴う撤退戦となるのは、転職先が決まるまで現職を辞められないからです。なぜ辞めてから転職活動を開始するのではダメなのか、もう少し深掘りしてみましょう。
貯金や失業保険をアテにしない
転職活動が大変なのは、現職企業で働きながら書類作成や面接をこなし、機会を伺いながら(要するに転職先が決まり、入社時期の調整に入ってから)スムーズに退職交渉を行っていかなければならないからです。
モチベーションが上がらない中で現職の仕事に取り組み、帰宅後に眠い目をこすりながら履歴書や職務経歴書をまとめ、スケジュールを調整しながら面接に向かう(挙げ句の果てにお祈りされることもしばしばです)。
⇨「書類選考通過率と転職活動のタイムマネジメント。戦線拡大は自滅する」
どう考えても大変なことに間違いありません。
こんなに大変なら、貯金も多少はあることだし、しばらくすれば失業保険ももらえるのだから、いったん現職をきれいに退職し、体勢を整えてから転職活動を進めればよいのではないか。
私もモチベーションの維持や時間のやりくりに苦労したので、そう思いたくなる気持ちは痛いほど分かります。
しかし残念ながら、この問いに対する答えは決まっています。
「心身の健康を害するようなブラック企業を除いて、現職企業は絶対に辞めてはいけません」
これは多くの転職本でも指摘されていることですが、重要なことなので当サイトでも強調しておきます。
資金が尽きれば妥協を迫られる
ではなぜ辞めてはいけないのでしょうか。
最大の問題はお金です。長年サラリーマンをやっていると忘れがちになりますが、何かしらの活動をしようとすれば当然費用がかかります。
記者の皆さんだって取材費がなければ満足な取材はできないでしょうし、パソコン(これも備品として会社が購入したものですね)がなければ記事1本書けないでしょう。
それは転職活動も同じです。
履歴書や職務経歴書はパソコンで作成するので、持っていない場合には購入が必要となりますし、面接時の交通費を出してくれる企業ばかりではないので、移動にもそれなりにお金がかかります。
⇨「書類は自分自身のカタログです。一般企業に何をアピールするべきか?」
なにより生活費や家賃(場合によっては住宅ローン)といった固定費は毎月発生します。
転職活動は新卒の就職活動と違ってメドとなる期間がありませんから、活動期間を事前に見積もることが難しい。
予想以上に長期化して資金が底をつきかけてきたら、精神的にも追い詰められるでしょう。
そして経済状態が悪化すれば、家庭内の雰囲気も間違いなく悪くなります。
そうなれば嫌でも妥協して仕事に就かなければなりません。
それで満足できればよいのですが、おそらく転職したことを後悔する可能性の方が高いでしょう。
交渉があることを忘れていないか
また、転職にしろ退職にしろ交渉がつきものですが、代替案を持っていない側は交渉力が弱くなります。
簡単に言うと、納得できる条件で合意できない場合はこの交渉から降りますよ、と言えるかどうかということです。
例えば年収を低く提示されたとしても、こちらが無職の状態で、かつ他に内定先もなく、資金も底をつきかけているとしたら交渉どころではありませんね。
このとき年収○百万円にしてほしいと交渉するには、現職企業に継続勤務するという代替案があり、合意できない場合は入社を見送るという選択肢を持っていなければなりません(実際には辞めたくて仕方なかったとしても)。
⇨「記者の転職、年収は…面接で希望年収を聞かれたらどう答えるべきか?」
採用側はあくまでも買い手であり、複数の候補者の相見積もりを取っているのですから、こちらも交渉の材料は少しでも多い方がよいのです。
少なくとも交渉相手に足元を見られるような状況は回避しましょう。
内定取消という悪夢
さらに内定を得た後も油断してはいけません。
退職を切り出すのは内定通知書を書面でもらって承諾した後であり、口頭での内定(この場合は内々定と言うべきなのでしょう)通知だけで先走るのはNGです。
私の知人のエピソードを紹介しましょう。
Aさんは大企業に所属する30代で、家族も持ち家も抱えていましたが、今後のキャリアを考えて、在職しながら転職活動をすることにしました。
もともと優秀だったAさんは世間でも有名な大企業から首尾よく内々定をゲットし、条件交渉の末、入社を承諾。それから在職中の企業に退職を申し出ました。
しかしその直後、内定先のオーナーの鶴の一声によって内定が取り消されたのです。
「とにかく頭を下げるしかなかった」と振り返るように、Aさんは現職企業に退職取り消しのお願いをするしかありませんでした(幸いなことにまだ退職願は受理されていなかったようです)。
在職中に活動するなど慎重を期していたAさんでしたが、書面での内定通知はもらっておらず、家族とローンを抱える中、退職を一度申し入れた会社に継続勤務する羽目になったのです。
彼は優秀だったので、その後、無事転職できましたが、それまでは針のむしろ状態だったことは想像に難くありません。
これは極端な例ですが、転職活動には思わぬ落とし穴があったりするものです。
※口頭での内定通知も法的に有効とみなされるという見解もありますが、実際に訴えられるかというと多くの人にそんな余裕はないでしょうし、そもそも上記のような会社には入らない方がよいと思います。
安易な退職は禁物との認識を
まとめましょう。転職を決意しても後先を考えずに退職してはいけません。
なぜなら転職活動の資金、その間の生活費を確保できなければ、お金が尽きた段階で妥協を迫られる可能性が高くなるからです。
また複数の選択肢を持たない状態で内定先との条件交渉に臨めば、不利な待遇を提示されても断る術をもちません。
内定を得ても油断は禁物で、現職企業への退職は転職先への入社が確実に決まってから切り出します。
具体的な在職中の転職活動の進め方は今後説明していきますが、まずは安易に会社を辞めてはいけないということを強く認識しておきましょう!
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